王子様とブーランジェール




イラッとしながらも、その様子を見守っているが。

包帯でぐるぐる巻きになっている、桃李の左手の薬指と小指が目立っており、目に入ってしまった。

指、ケガしたらしい。

骨には異常なく、ただの打撲のようだが。

球技大会の前日にバレーボールの練習で突き指をした、と話していた。



…指、ケガ?!



『指?…おまえ、何やってんだ!気を付けろ!』

『ご、ごめんなさい…』



いや、俺に謝られても。

だが、おまえのその指は、うまいうまいパンを作り出す、大切な指だぞ!

俺にとっても大切な大切な…。

…球技なんかするんじゃない!

バレーボールなんてもってのほか!

おまえは地味に卓球でもやってろ!




どうやら、痛みが退くまではパン造りはお休みらしい。

そんなワケで、ヤツな応援要員となっていた。

山場を迎えているこの試合に、友達と一層の声援を送っている。



「理人、あと一点頑張ってー!」



だから。

理人理人言うな。

いくら応援要員だからって、そんなに理人ばかりを応援するんじゃない!

桃李が理人理人言う度に、ムッとさせられる。

午後からサッカーの決勝戦あんだけど、俺にそこまでの声援送ってくれんのか?

ちっ。

嫉妬深いのも嫌になる。



結局、やはりこの男、理人が男バレ顔負けの強烈なスパイクをかまして、最後の一点を取ってゲームセット。

1年3組の勝利となった。

勝ったか。3位か。



試合終了の礼をした後、理人たちがこっちに戻ってくる。

「和田くんお疲れー!」

「ナイスファイトー!」

「どーもどーも」

両手を差し出すクラスメイトたちの列に、次々とハイタッチをしていた。

やたら爽やかで腹立たしい。



「理人、お疲れさま」



桃李ともハイタッチをしている。

…腹立たしい。




「桃李の応援、聞こえたよ」

「え?ホント?」

「大きい声出るんだね?悲鳴以外でも」

「もー!」




…腹立たしいわ!



何、二人の世界みたいになっちゃってんの?

応援聞こえたよ?って、まるでおまえの応援しか聞こえてないよー?みたいな?

ラブラブか!おまえら、ラブラブか!



笑い合っている二人をジェラシー全開に見ていたのは、言うまでもない。

あんたら、ホントにただの幼なじみですか?



く、悔しい…!



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