王子様とブーランジェール
…確かに。
サッカーコートは広いし、ガヤガヤしてるし。
試合に集中してるし、そんな中、チラッとギャラリーを見ても遠くて誰が誰だかわからんし。
今まで、そんなの気にしてなかったけど。
でも…さっきみたいなのを見せつけられると、羨ましくなってしまった。
頑張ってー!とか。頑張ってー!ってさ。
ハイタッチなんかしちゃってさ!
あいつの声援、俺だけのモノにしたい。
なんて。
「夏輝のファンってさ。何か嫌な感じ。好きじゃない」
横では、理人がすでに弁当をつまみながら、ボソッと呟いていた。
急に何を言い出すかと思えばおまえ…ガクッとくるわ。
「好きも嫌いもあるかおまえ。そんなのどうでもいいし。小笠原のガス室には興味あるけど」
「あ。小笠原とかの竜堂喜び組は好きだよ?あいつら面白すぎるでしょ。私達の夏輝様!ってさ」
「喜び組はやめろ。じゃあ他の誰が嫌な感じだよ…って言っても小笠原たち以外誰がファンなのかさっぱりわからん」
「おまえ、ホント桃李以外興味ないんだな。いるだろー。夏輝の彼女になりたがっている下心満載の女子たちが。メス臭がしてキモい」
メス臭…。
思わず首を傾げてしまう。
「まあ、小笠原たちとその下心満載女子たちとの違いは、夏輝を神扱いしてるのか、オス扱いしてるのかの違いだよね」
神かオス?
何だそれは。
理人の遠回しな例え発言に、ますます頭がこんがらがる。
すると、『時間だからそろそろ行こうぜー!』と、同じサッカーのメンバーの一人が呼び掛けてくる。
「はいはい」
「行きますかー!」
周りのみんながそれぞれ席を立ち、順に教室を出ていく。
俺も弁当箱を片付けて、咲哉と一緒にだらだらと歩いて教室を出る。
「夏輝、頑張ってー!」
理人が裏声で女子のように、声援を送ってくる。
うるせえ。からかってくるんじゃない。
おまえの声援なんかいらん。
すると、クラスの女子たちが俺達のところにやってきた。
「もう行くのー?頑張ってよねー!」
「三年生倒して優勝しちゃってよ!」
「応援行くからねー!頑張ってー!」
みんな手を振ってきたり、背中を叩いたりしてくる。
囲まれているその輪に、柳川や尾ノ上さんたちもやってきた。
「竜堂くん、楽しみにしてるからねー!勝ってきてね!」
「ミスター頑張れ!」
柳川と尾ノ上さんは俺の傍に寄ってくる。
後ろには、黒沢さんや菊地さん、そして…桃李もくっついてきていた。
桃李…来た。