王子様とブーランジェール
だが、頑張れ頑張れと連呼して激励してくる柳川や尾ノ上さん、黒沢さんとは違って。
桃李は控えめに菊地さんと二人でおまけのように柳川らの後ろに立っている。
見守ってるのか何か知らないが、まるでモブのように隅っこにいる。
ここでモブ本領発揮しなくても…。
夏輝、頑張ってー!
…って、言ってくれねえの?
誰よりも前に出て来て、言ってくんねえのか?
もし、言ってくれたら…頑張る。
勝つよ?絶対に。
…だが、そんな俺の思いになんて気付くワケもなく。
桃李はさりげなく隅っこに立って、その様子を笑顔で見守っており、モブ本領発揮し続けている。
ニコニコしながら遠くから見守るな。
かわいいけど。
まさか…。
《夏輝がおでこにキスしてくるから、悪いんでしょ!》
…気にしてるとか?
意識されてるとか?
(………)
いや、ないな。
だって、赤面どころか、今の桃李、笑顔だぞ。
仏のように穏やかな笑顔だぞ。
桃李…。
あの時は、すごく顔を真っ赤にして、涙目でブルブルしてたのに。
ばか!って言ってたのに。
週明けには普通の態度に戻っていた。
まるで何もなかったかのように。
今がチャンスだ!だなんて思っていたけど。
俺も結局、今までの行動パターンを変えられずに。
あの時限定で、ちょっと盛り上がっただけの結果となってしまった。
結局、何もしないまま…。
でも…ここで、俺が一言、言えれば。
桃李、試合見に来いよ?
おまえが見に来てくれたら、頑張れる。
…なんて。
奥の方で控えめに見守っている桃李を横目でチラッと見る。
だが、視界に入れてしまうと、いつものようにドキッとしてしまい。
喉の奥から出てきそうな何かを飲み込んでしまった。
いやいや。
絶対に言えない。
こんなこと言ってしまったものなら、頑張れるどころか、試合で使い物にならなくなるわ。
恥ずかし過ぎて、照れ過ぎて…。
結局、柳川たちの激励には「おう、わかった」とあっさりとした一言を返して、教室を出る。
「頑張ってこーい!」
「優勝だよー!」
女子たちは揃ってお見送りで手を振ってくれる。
桃李も一緒に手を振っていた。
まるで、みんなの流れに合わせて。
隅っこで。
所詮、こんな結果…。