王子様とブーランジェール




互いのチームメイトに制止され、宥められるが、当の本人たちはそんなの構わず、睨み合い、口論を続ける。

かと、思いきや。



「はいはいはーい。ケンカはやめーっ!」



手を叩きながら、俺と高瀬の間にズッと割り込んでくる。

口調が、この場に合わない呑気で穏やかなもんだから、ガクッときてしまった。

高瀬も俺も、この穏やかな口調に一気に勢い殺される。



来た。来たぞ。

何を考えてるかわからない男。



「さあー。竜堂も高瀬も!今回はサッカーの試合なので、拳ではなくボールに闘争心込めて戦いましょー!」



相変わらず呑気にパンパンと手を叩いている。



「は、蜂谷…」

「………」



蜂谷さん…さすが、うまいこと仲裁してくんな。

50人強の部員束ねてただけある。

しょうがなく、しぶしぶと引き下がる。



「…竜堂」



名前を呼ばれて振り返る。

そこには、まだ蜂谷さんが立っていて、こっちを見ていた。



「…なんすか」



すると、いつもの調子でニッと笑いかけてくる。



「俺も桃りんの声援、欲しいなー」

「は?…はぁっ?!」

「なんちて。うっそーん」

「えっ…」

「…あれ?『冷静さを欠くなんざ、話にもならない』んじゃなかったっけ?おまえ、デビュー戦で俺達3年にそう言ったよねー?小生意気坊主」

「………」

ここで、それを言う…?

いつかの仕返し、された気分…。

蜂谷さんは俺の顔を見て、ニタニタと笑っている。

俺、今どんな顔してる…?




やられた…。




一悶着終えて、落ち着いたところで試合は開始。

試合は、どちらかと言えば俺達1年3組の方が押してはいたけど。

本職キーパーに阻まれて、シュートが入らない。

俺、何本シュートしたのよ。

で、何本セーブされてんのよ!



お互い0ー0で得点ないまま、最後はPK対決。

咲哉も本職ではないのに頑張ってセーブしていたが。

最後に本職キーパーがなぜかシューターとして登場し。

ゴールを決めてしまった。

その一点が決勝点となってしまい。

試合、負け…。

蜂谷祭りだ。




蜂谷さんの一言に、メンタル揺さぶられたワケではない。

こんな球技大会で…軽い気持ちでやってたんだからな?



だか、お遊び試合だろうが、何だろうが。

ゴリラと何を考えてるかわからない男と、敵だらけのクラスに負けたのは悔しい。

く、悔しい…!



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