王子様とブーランジェール



私がフードパックに詰めた焼きそば。

私がタレを味付けした、焼きイカ。

焼き鳥に、豚串、じゃがバター。

フライドポテト。



『母さん夜勤だから、買っといて朝食べようと思ったんだけどさー。考えたら、朝から焼き鳥はキツイしょ。だから、桃李とここで軽く慰労会でもしようかと…』

『慰労会…』

『今日の桃李はホントに頑張った。同じ歳の俺達はチャラチャラだらだら遊んでんのに、大人に混じって労働なんて、ホント尊敬するわ。だからお疲れさん会。…桃李、何も食べてないだろ?』

『………』



そうだ。

そういや、労働中は何も食べてない。

自分で詰めた焼きそばも。自分で味付けしたタレがかかった焼きイカも。



理人、見てたんだ…。



こんな自分を労ってくれるだなんて、感動する。

少しうるっときちゃった。



『…あ、飲み物ないな。買ってくっか』

『あ、あ、私、ミルキングあるよ?2つもらったの…ぬるいけど』

『お、じゃあ、ぬるぬるのジュースで乾杯』




そういうワケで。

生ぬるいジュースで、乾杯。




『桃李、お疲れ』

『ありがと、理人』



紙パックのジュースを、グラスのように合わせて、乾杯。

そして、広げた焼きそばたちを食べる。



『んー。焼きそば冷たくても美味しい』

『焼きイカうまくね?沖漬け?桃李がタレ作ったんだろ?何これ、生姜?』

『うん。お醤油、ザラメ、日本酒、生姜のすりおろしチューブで』

『すげー。料理出来るヤツ、尊敬するわ』

『理人だって、この間美味しいの作ってくれたしょ』

『あー。あれは、焼きサバほぐしてマヨネーズ混ぜただけだから。サバマヨ』

『ふふっ。何か、飲み会みたいだね。野外でなんて、呑んだくれおじさんの飲み会』

『まあまあ、このミルキングは5年後にはワンカップに変わりますから。桃李はイケる口だろ?』

『うん。お酒はおばあちゃん遊びに来た時必ず一緒に呑むから』

『それにしても毎年思うけど、売り子の桃李、普段と全然違うな。ドジらないしキョドってない』

『うん。料理や接客は何だか集中出来ちゃうの。普段の生活や勉強は集中出来なくてすぐにパニックになっちゃう。頭が回転しないっていうか…』

『へぇー』



ミルキングを飲んで、おつまみ食べて。

なんてことない、ちょっと面白い話をして。

理人といるのは楽しい。すごい楽。

男女の関係あれこれ考えるより、すごい楽…。



< 808 / 948 >

この作品をシェア

pagetop