王子様とブーランジェール
私がフードパックに詰めた焼きそば。
私がタレを味付けした、焼きイカ。
焼き鳥に、豚串、じゃがバター。
フライドポテト。
『母さん夜勤だから、買っといて朝食べようと思ったんだけどさー。考えたら、朝から焼き鳥はキツイしょ。だから、桃李とここで軽く慰労会でもしようかと…』
『慰労会…』
『今日の桃李はホントに頑張った。同じ歳の俺達はチャラチャラだらだら遊んでんのに、大人に混じって労働なんて、ホント尊敬するわ。だからお疲れさん会。…桃李、何も食べてないだろ?』
『………』
そうだ。
そういや、労働中は何も食べてない。
自分で詰めた焼きそばも。自分で味付けしたタレがかかった焼きイカも。
理人、見てたんだ…。
こんな自分を労ってくれるだなんて、感動する。
少しうるっときちゃった。
『…あ、飲み物ないな。買ってくっか』
『あ、あ、私、ミルキングあるよ?2つもらったの…ぬるいけど』
『お、じゃあ、ぬるぬるのジュースで乾杯』
そういうワケで。
生ぬるいジュースで、乾杯。
『桃李、お疲れ』
『ありがと、理人』
紙パックのジュースを、グラスのように合わせて、乾杯。
そして、広げた焼きそばたちを食べる。
『んー。焼きそば冷たくても美味しい』
『焼きイカうまくね?沖漬け?桃李がタレ作ったんだろ?何これ、生姜?』
『うん。お醤油、ザラメ、日本酒、生姜のすりおろしチューブで』
『すげー。料理出来るヤツ、尊敬するわ』
『理人だって、この間美味しいの作ってくれたしょ』
『あー。あれは、焼きサバほぐしてマヨネーズ混ぜただけだから。サバマヨ』
『ふふっ。何か、飲み会みたいだね。野外でなんて、呑んだくれおじさんの飲み会』
『まあまあ、このミルキングは5年後にはワンカップに変わりますから。桃李はイケる口だろ?』
『うん。お酒はおばあちゃん遊びに来た時必ず一緒に呑むから』
『それにしても毎年思うけど、売り子の桃李、普段と全然違うな。ドジらないしキョドってない』
『うん。料理や接客は何だか集中出来ちゃうの。普段の生活や勉強は集中出来なくてすぐにパニックになっちゃう。頭が回転しないっていうか…』
『へぇー』
ミルキングを飲んで、おつまみ食べて。
なんてことない、ちょっと面白い話をして。
理人といるのは楽しい。すごい楽。
男女の関係あれこれ考えるより、すごい楽…。