王子様とブーランジェール




頭がくらくらしてきた時、本当に目の前が真っ暗になった。



『お盛んですなー?…って、何やってんの』




目の前が本当に真っ暗になったと思ったら、そのままグッと後ろに引っ張られる。

目を覆われたまま、後ろへとズルズル引っ張られていった。



『桃李に過激なラブシーンはまだ早い早い』



すると、視界がパッと明るくなって開く。

そこは、さっき理人と宴会をやっていた草影のベンチだった。



『理人…』

『あんなのずっと見ていて、興味あんの?エロ桃李?』

『………』

『…好きな男が他の女とイチャついてるの見て楽しむなんて、もしかしてドM?』

どえむ…って、何。



理人、私の目を覆ってここまで連れてきてくれたんだ。

私に、これ以上あの二人のことを見せないために。



理人の顔を見ると、安心したのかホロッと涙が出てきた。

それは、ポロポロと止まらず。

『…ツライよなー。好きな男が他の女とイチャこいてんだもん。ツライよな』

そう言って、理人は私の頭を撫でている。

その手は…とても温かった。



そうか、私。

薄々は気付いていたんだけど。



夏輝のこと、好きだったんだ…。



だから、夏輝と里桜ちゃんが一緒にいるのを見るのが嫌だった。

仲良くしているのを、見たくなかった。



…あの笑顔を里桜ちゃんに向けているのが、嫌だったんだ。



あの黒いもやもやは、嫉妬だ。

そして、劣等感。

私の黒い感情だった…。



『…理人は何で気付いたの?』


ぬるぬるのミルキングを飲んで、落ち着く。

じゃがバターを食べていた理人は、ははっと笑う。


『だって俺、桃李のこといつも見てるもん。面白いから。桃李のファン』

『もう』

『まあ、桃李のファンは他にもいるけどね』

ファンって何。

だからと言って、私自身が気付かなくて曖昧になっていたことに気付く?

物凄く観察力の高い人だ。



『…俺、桃李の味方だかんね。秋緒も。何があっても。桃李が悪くても』

『…何それ』



それは、何かを先取りして告げられた言葉?

意味がよくわかんない。

…でも、独りぼっちじゃないということは確かで。

嬉しい。


『…ありがと。理人』

『どういたしまして?』



…それから、私の黒いもやもやは一時消えた。



夏輝のことが好きだと自覚したこと。

それと、理人と秋緒が私にはついているということ。

それで、安心したのかもしれない。




…でも、それは一時的なものだった。



< 810 / 948 >

この作品をシェア

pagetop