王子様とブーランジェール



嫉妬…だなんて!



…とは、完全否定出来ない自分がいた。

里桜ちゃんの話を聞くたびに、出現していた黒いもやもやの正体は。

嫉妬と劣等感…。



『り、里桜ちゃ…』

『…うるさい!何よ、この眼鏡ブス!』

突然こっちを振り向いたと思ったら、ドン!と突き飛ばされる。

力が入っていて吹っ飛び、転ばされて尻餅をついた。

背中のど真ん中にテーブルの足を打ち付けてしまう。一瞬だけど、息が詰まった。

痛みでなかなか起き上がれない私の前に、里桜ちゃんは立ちはだかり、上から私を見下ろす。



『…何?…夏輝くんのこと好きになっちゃって…付き合えたらいいな?とか、カノジョになりたいとか、思っちゃってた?』

『な…』

最近気づいたのだから、そんなこと考える余裕もない。

それに、夏輝には里桜ちゃんがいたし。

そんな事よりも、なぜそんなことを言われるのかがわからずに、固まってしまう。

里桜ちゃんは、そんな私を見ながらバカにしたように笑った。



『バカじゃないの?…桃李ちゃんみたいな、天パ眼鏡のブス地味ダサ子、王子様の夏輝くんが好きになるワケないじゃない!』

『……』

『王子様とみずぼらしいダサ子、釣り合い取れると思ってた?…自分の姿、ちゃんと鏡で見ろって!』

『わ、わ…』

『図々しい!…おまえが夏輝くんと付き合うとか、100万年早いんだって!』

『あ…』

『せっせとパンを焼いて夏輝くんに食べさせて、そんなんで夏輝くんの気を引こうとして…所詮、ただの下僕だろ!おまえは!』

『……』






私みたいな天パ眼鏡のブス地味ダサ子、夏輝が好きになるワケないじゃない。


王子様と釣り合い取れると思ってた?


夏輝と付き合うとか、100万年早いんだって。


せっせとパンを焼いて、気を引こうとして。


所詮おまえは、ただの下僕だろ。






(そうだよね…)




体がまた、鉛のように重くなっていく。

気付いたら、あの黒いもやもやが体を取り巻いているようで。

胸に穴が開けられて、そこからどんどんと火事の煙のようにもくもくと出て来ている。

それが、どんどん体や頭の中を包んでいく。





(…パンを焼いて、気を引こうとして)





《これ、おまえが焼いたの?!おまえは天才だよ!》

《また焼いてくれな?》

《おまえの作ったパンは美味いに決まってんだろーが》






(私は、ただの下僕…)



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