王子様とブーランジェール




黒い感情に、頭が支配される。



《モブはモブらしくしてろや》

《桃李は、優し過ぎる》

《うわっ。桃李ちゃん、このエプロン汚れてるよ?》

《桃李だってたまにはもっと怒ったっていいんじゃないの?》




今までのことが、ぐるぐると頭の中でオーバーラップする。

そこから意識を背けられなかった。




《自分の姿、ちゃんと鏡で見ろって!》





王子様の横には、いつだって綺麗なお姫様。

みずぼらしい、天パ眼鏡ブスの地味ダサ子な下僕ではない。




そうだよね。




(何で…)




黒い感情が、頭や胸の中でいっぱいになる。

どうにも抑えられなくて、体の中に収まりきらなくて。



そして、外に噴き出してしまった。




『…なのに!…なのに!何で夏輝くんは…!』

『…んで…』

『はぁっ?!』

『お願い…死んで』



頭の中を黒い感情に支配されたまま、持っていたホウキの柄をグッと握りしめる。

でも、その指先は震えていた。

フラッと立ち上がる。



『な、何よ…!』



頭の中が、黒い感情に操られる。

自分の意識が持っていかれて、勝手に動く。



ホウキを手にしたまま、フラフラした足取りで里桜ちゃんに詰めよっていった。

そんな私の突然の様子に、里桜ちゃんはますます面白くない顔をする。



『な、何…』

『…今すぐ、消えて…消えて!』



持っていたホウキを里桜ちゃんに向かって振り回す。

『きゃっ…!』

とっさに顔を手で守るが、その手にホウキがバシッ!と当たった。



『…消えて!…死んで!お願い!…消えろおぉぉぉっ!!』



出したことのない低い声を怒号として出して、何度も何度もホウキを里桜ちゃんに向かって叩き付ける。

バシッ!と当たる度に里桜ちゃんは『きゃっ!』と悲鳴を上げている。

私のホウキ攻撃を何度も受けているとそのうち、今度は里桜ちゃんが尻餅をついて倒れた。



『…消えろおぉぉぉっ!…消えろおぉぉぉっ!』

『…ちょっと何なのよ!急にキレ出して!…キモいんですけど!』

『うるさいぃぃっ!…死んでえぇぇっ!』

『きゃっ!…やめっ!…何なのよ!』


ホウキを振り回す私から、里桜ちゃんは床を這いつくばって逃れる。

そんな里桜ちゃんに向かって、虫を叩いて狙い殺すかのように、頭や体目掛けてホウキを叩き付けた。



もう、自分の意識がどこにあるかわからない。

でも、何かに憤りを感じて、それを払拭したくて。

私は大暴れした。



< 814 / 948 >

この作品をシェア

pagetop