王子様とブーランジェール
『うん』
『あれ?帯広に帰るって話は?母さんの高校だっけ』
進路、実は…帯広に帰って、お母さんの母校である農業高校を受験してはどうかと、お母さんから提案があった。
そこにはお母さんも在籍していた製パン科があり、製パンの知識の基礎を高校で学べる。
座学も大事だし、一人前のブーランジェールへの近道になる、と。
『うん…だけど、札幌にいることにした。もう少しお母さんの傍で勉強したいかなって…』
座学も基礎も大事なんだけど。
私の傍には、偉大なる師匠がいる。
お母さんの傍でもう少し勉強したいっていう思いの方が強かった。
家から近い高校を選べば、お店に出れる時間も多くなる。
そんな理由で、家から徒歩5分の目の前にある高校にした。
『そっかー。じゃ、札幌出るの俺だけか』
凜くんは、夏輝と同じクラブチームにいて、青森のサッカー強豪校からのお誘いがあった。
トライアウトも受けて、見事に入学が決定。
『凜くんいなくなるの寂しいね』
『いやいやでも、サッカーで行くとこまで行ってみてえし?…でも、俺的には夏輝がフツーに公立受けるのにはビックリした。いくら星天だからってさー』
私だってビックリした。
夏輝はサッカーで全国各地の高校から特待生入学のお誘いが来ていると、秋緒が言っていた。
だけど、特待生入学のない地元の公立高校をあえて選んだのだ。
『「俺がもし家を出たら、ピンクが餓死する」ってさ。あいつ、愛犬家だっけ?』
『いやいや凜。それだけじゃないと思うけど?』
『おい!何となくわかっとるわ!…でも、星天は去年全国行ってんだよなー。設備や練習もまあまあいいものやってるし。…あ、理人も星天?』
『うん。夏輝と俺は学校推薦で行くけど。夏輝は楽勝だろうけどな』
『頭いいっていいなー』
みんな、それぞれ別々の道…と、思いきや。
私、夏輝と志望校一緒…理人も。
夏輝と同じ高校か…。
受かったら受かったで、同じ高校は嬉しいのか、不安なのか。
落ちたら落ちたで、悲しいのか、よかったのか。
かなり複雑な気持ちだった。
『…まっ、桃李、俺達は一緒の高校行けるように頑張ろう?…落ちたら帯広行きなんだろ?』
『うん…星天落ちたら二次募集でその帯広の高校に行けって言われてる』
『まあ、桃李の脅威の集中力なら、全然大丈夫だと思うけど。ノー勉の一夜漬けで平均以上取れるんだから』
そんなワケで、冬休み中も、冬休み終わってからも明くる日も勉強の日々だった。