王子様とブーランジェール




大好き。

でも、想いは伝えない。



こうして、私が焼いたパンを食べてくれれば、それでいいから。




一ヶ月ほど経った頃…また、夏輝に新しい彼女が出来た。

同じクラスの古嶋心菜ちゃん。

里桜ちゃんのように、派手めのオシャレで綺麗な女の子。美人さんで、狙っている男子も多かった。

心菜ちゃんは、ずっと夏輝が好きだったらしく、夏輝が里桜ちゃんと別れるのを待って、猛アタックをしていた。

どうやら、学校祭の打ち上げと称して千島くんちで男女5、6人で飲み会をしたところ、付き合うことになったらしい。

酔っ払った勢いでのこと…みたい。



その話を聞いたり、二人でいるところを見るのは胸が痛かったけど。

心菜ちゃんは、私みたいな地味子にも優しいし。

前のように、黒いもやもやが現れることはない。



だって、王子様の隣には。

いつだって、綺麗なお姫様。



王子様の気を引こうとしてパンを焼き続ける、みずぼらしい下僕ではない。

私ごときが、王子様の隣にいたいと、願ってはいけない。




そう、自分に言い聞かせる。




…でも、なぜか夏輝と心菜ちゃんは、そう長くは続かず、2ヶ月しないうちに別れていた。









それから、更に時は経ち。

寒さは厳しくなり、やがて肌を突き刺すほどの気温になる。

それに伴って、ハラハラと雪が落ちてきて、いつの間にか積もっていた。

辺りは一面白銀の世界へと姿を変え、アスファルトは真っ白な雪で踏み固められる。

本格的に冬がやってきた。



私達受験生には、クリスマスも塾があり、勉強。

商店街のおじさんたちのクリスマスパーティーという名の飲み会に、数分参加させてもらう程度でしかクリスマスはなかった。

正月は、竜堂家は函館のおじいちゃんおばあちゃんちに行っていて、私は理人と凜くんと初詣に行ったぐらい。

志望校も決まり、本格的に受験本番に向けて準備をする。



『桃李は星天高校受けんの?」



初詣の帰り道、隣を歩いている理人が話をふってくる。

『うん』と答えると、理人の向こうにいる凜くんが『すげー!』と驚いていた。

『桃李、そんなに頭よかったっけ?』

悪びれもなくストレートに聞いてくる凜くんに、ちょっと笑ってしまう。

『い、いや。評定、ランクギリギリなの…。だから推薦はダメで、一般で…当日点稼がないと…』

『へぇー。でも受けんだ』


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