王子様とブーランジェール
『…すぐにやめることは出来ないと思うけど…でも区切りはつけようかなって』
夏輝にあんな目で見られるのは、耐えられない。
そうでないと、またあの…黒いもやもやが復活しそうで…恐い。
本当は優しい人だと思ってるのに。
夏輝をそんな風に思ってしまった。
それが一番嫌だった。
『…今日、これから夏輝、来るよ?』
『え?』
『たぶんきっと。桃李のこと心配して顔出すと思う』
『…どうかな』
私を心配?あるワケ…あるか。
そういうところは、優しい人だから。
『まあ、もし来たら明日の荷物持ちでも手伝わせな?今日の詫びとして?』
そう言って、理人はずるく笑う。
『もう、詫びだなんて。そんなこと言えるワケないでしょ。それに朝練あるだろうし』
『…でも、俺は桃李の味方をするからね?例えどんな決断をしても』
それは…さっきのやめるっていう件、だよね。
味方をしてくれる、それは昔から変わらないんだ。
変わらないでいてくれることに、有り難さを感じる。
『…うん。ありがと』
『ホント、桃李、俺のこと好きになればよかったのに。俺となら楽しくやれると思うけどね?俺達付き合う?』
『何言ってんの』
『あー。でも、ダメだ。桃李と付き合っちゃったら、その大きいおっぱい毎日揉みたくなる。教室でも揉んでるかもしんない。みんなの前で』
『このスケベ。バカ』
そして、理人の予言通りに、その一時間後に夏輝は来た。
ちょうど朝練もないみたいで、荷物持ちもしてくれることになった。
…その日の放課後。
ホームルームも終り、クラスメイトがそれぞれ帰り、教室から出て行く。
私もそろそろ帰らないと。
そう思い、今朝使った食器の大きい袋を肩にかける。
『わ…わわわわ』
思ったより重くてフラッとしてしまった。
朝は理人に持って貰ったけど、帰りは理人は部活だから、頼めない。
何としても、自分で持って行かないと…と、思い、今一度試みて『ふんっ!』と声を出して担ぐ。
休み休み進めば帰れる…。
『かぁーんだすぁーん』
そんなフラフラな足取りの私の前に、気の抜けた感じで私の名前を呼ぶ人が現れた。
ニヤニヤしながら、私の前に立ちはだかる。
…あ。この人、松嶋くんだ。
昨日ですっかり名前を覚えた。