王子様とブーランジェール



『あ、どーも…』

昨日のこともあり、ペコリと頭を下げる。

彼はまだニヤニヤしながら私を見ている。

何だろ。


『いやぁーごめんねー。昨日、やっぱ夜夢に出てきちゃって、君、俺のおかずになっちゃった』

『おかず?…肉じゃが?ハンバーグ?』

『いやいやいや。一発抜いちゃったってこと』

『抜いた?大根を?』

『あんた、ベタな天然なのね。まあいいや、それでも。…あのね、ちょっと一緒に来て欲しいんだけど。君を連れてこいってヤツがいるんだわ』

『…え?わ、私?』



昨日に引き続き、今日もお呼びだし?

また、うちのパンを食べたい人がいるんだろうか。


しかし、彼は強引で。

私の返事を待たずに『行こう行こう!』と、私の肩にかけた食器のバッグを軽々と奪う。

『あっ…』

『持ったげる。さあ行こう』

手を取られて、強引に引っ張られてしまう。

あれよあれよと連れて行かれてしまった。



連れて行かれた場所は、昨日と同じC教室だった。



『おい律子!連れてきましたぜい!ボス!』



中に入ると、昨日のあの人が、奥の席に座っている。

二年生の律子さんだ。



『ご苦労!…なーんてね?慎吾ありがとー!』

『まったくだ。おまえのワガママといったらもー』

『愛、感じてるよー?大好き!』

『感じてほしくないわ。はいはい』

『もー!』


夫婦漫才みたい。

恋人同士かなんかなのかな。この二人。



漫才を終えた後、律子さんは『きゃあぁー!いらっしゃい!』と私の手を取る。



『チワワちゃん!来てくれてありがとう!こっちこっち!』

律子さんの指す方向、机にジュースとおやつが置いてある。

『あ、あ、何の用…ですか?』

恐る恐る尋ねると、律子さんはニコッと笑う。

『ただお話ししたかっただけ。昨日、泣いて帰っちゃったから、気になっちゃって』

『あ…』

そうか。去り際に泣いてしまったから。

気にしててくれたんだ…。

『さ、座って座って。お茶用意したの。レモンティーとミルクティーどっちがいい?あ、慎吾はコーラね?』

『ホントはビールだけど…ま、学校だしな』

そう言って、松嶋くんはドカッと椅子に座る。

『す、すみません…じゃあ、レモンティーで…』

私もしずしずと隣に座らせてもらった。



…そんなワケで。

何故だかこのメンバーで自己紹介をしたのち、御茶会が始まってしまった。

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