王子様とブーランジェール



『…たぶん、桃李の頭の中には「こんな下僕な自分がお姫様になんてなれるはずがない」っていうのが、あると思うのだけれど…俺はそうは思わない』

『思わない…の?』

『あぁ。俺は、世界中のどの女子誰もが、誰かのお姫様になれると思ってるぜい?シンデレラだって、母ちゃん姉ちゃんの下僕だったけど、最終的には王子様のお妃になったろ?』

『あ…うん』

『それに、今のこの世の中、綺麗になる手立て、ツールはいっぱいある。可能性は無限大。みんながみんな、お姫様になれるワケよ?』



世の中、可能性、無限大…。


そのように言ってくれる人がいるとは、思わなかった。



『それに、誰が「下僕はお姫様にはなれない」って言った?神様は何も禁止なんかしてない』



今まで私の中で勝手に育ってきた、ガチガチの下僕の価値観が、柔らかくなって溶けそうだ。



そうだ。

神様は、何も禁止なんかしてないんだ。




『桃李…俺達が、おまえをお姫様にしてやる』



目の前にいる二人は、私に笑いかける。

律子さんもピースして『もちろん私も協力するよー?』と言ってくれている。




私が…この私が?

お姫様に、なれるの…?




『まあ、おまえさんの場合は見た目は簡単だ。素材はダイヤモンドだからな?その眼鏡は外して、天パはどうにかして、そのダボダボな制服はちゃんと体のサイズに合うものにする。…で、律子にちょっとしたメイクを教われば…それだけで、ほとんどの男子たちの夢におまえが出現するようになるぜい?』

『…こら!セクハラ!』

律子さんが松嶋の頭をポカッと軽く殴る。

やはり、夫婦漫才だ。

『しかし、その下僕根性は手強いな。時間はかかるかもしれん。地道にご指導するよかないな』

『はぁ…』

『で、竜堂のことはまず置いとけ。取り敢えずおまえさんは、自分を磨くことを考えろ。見事、お姫様になってから、竜堂のことを好きでいるのかやめるのか、考えればいい』

『…うん』

『でも、桃李、一緒に頑張ろっ』

律子さんは、バッと…でも、優しく。

私の首に腕を絡めてキュッと抱き締めてくれる。



『自分なんて…って言いながら、隅っこでひっそりと生きてくなんて、もったいない。もっともっと楽しもう?今を』

『そうだな。光陰矢のごとし、命短き恋せよ乙女ってな?』



二人に背中を押され。

目の前の道に、太陽の日差しが差し込まれていく…。



『…う、うん!』




…こうして、この二人による、私改造計画が始まったのである。


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