王子様とブーランジェール
『…あと《王子様の隣にはいつだって、綺麗なお姫様》か…』
そう呟いて、松嶋はふぅと鼻から息を短く吐く。
自分のコーラをぐびっと一口飲んでいた。
そして、しばらく無言になっている。
何か、考え事をしているような…。
そして、唐突なことを簡単に言ってのける。
『…桃李、おまえさん、その《綺麗なお姫様》になろうとは思わなかったんかい?』
『ええっ!』
わ、私が?!
お姫様に?!
この人、なんてとんでもないことをおっしゃるんですか。
こ、この天パ眼鏡地味ダサ子なブスの私が…お姫様?!
そのもしもの姿なんて、想像がひとつも出来ず。
空前絶後だ。
『な、な、な、な…』
『「何てことをおっしゃるんですか!こんな天パ眼鏡地味ダサ子なブスがお姫様だなんて、図々しいにも程がある!」と、でも言いたいんか?』
『あ、あ…』
『あぁー…。その下僕根性、もうここまでくりゃある意味呪いだな。竜堂の呪い』
『もう!竜堂、桃李に呪いまでかけるなんて!ホンっトに許せない。死ねばいいのに!』
夏輝が私に呪いなんてかけるはずがない。
だって…こんなヤツ、目もくれてないと思う。
さっきの松嶋の話から考えてみれば。
私が勝手にそう感じ取った上に。
里桜ちゃんにそう言われて、勝手に私も納得しちゃって、そう評価してしまい。
私自身が勝手にかけた呪い…。
『…桃李』
『は、はい』
松嶋はニヒッと笑って、私を見る。
『…おまえが、そのお姫様とやらになろうじゃないか?』
いたずらっぽく、でも不敵な瞳で。
『…え。…え、ええっ!』
一瞬、私の全ての機能が停止した。
え…?私が?
私が…お姫様に、なる?!
そんな発想、ある?!
『…ダメーっ!!』
そこへ横やりを入れる、律子さんの大声が
響く。
『…ダメ!ダメよ!…だから、竜堂には桃李はもったいないの!それが、竜堂のお姫様?!…冗談じゃないよ!』
その勢いで、松嶋に詰め寄る。
『わ、わかったわかった。じゃあ「竜堂の」は外そう?…お姫様。ただのお姫様』
『そう!それでいいの!』
随分そこにこだわってますね…。
『ま…俺もなんも、桃李に「竜堂のお姫様になれ、彼女になれ」と言ったつもりはないぞな?』
『…え?』
『 お姫様になるんだ。美しい、綺麗なお姫様にな?』
『わ、私が…』
あわあわと挙動不審になりかけてしまう。
松嶋はそんな私を見て、深く頷いた。