王子様とブーランジェール
悲しみも束の間。
ショックで落ち込んでいたら…隙を突かれるぞ。
危ない。
自分へのダメージなど、構っているヒマはない。
雷劇場、第二部。
「…だから!…だから何で無しにする必要があるんだ!いい加減、身長に振り回されるんじゃねえ!」
「だ、だって…見た目重要…でしょう?」
「『でしょう?』って、さっきから何だ!見た目、重要だけど重要じゃねぇぇっ!俺、そんなひどいヤローじゃねぇぇっ!」
「あ、そう…なの?」
「何で疑問系なんだよ!おまえ、俺に対する印象最悪だろ!第一、俺はおまえを下僕と思ったこと、一回もねえし!…なのに、何でおまえは自分のことを『俺にパンを焼く下僕』って言うんだよ!」
「あ…それは」
「今までに俺がおまえを下僕って呼んだことあるか?!『おーい下僕!パン焼いて!』って命令したことあるか?ないよな?あぁ?」
「な、ないない…ないねっ…」
「…だろ?!だって、俺にとっておまえは下僕じゃねえし!どこがどうでそんなことになったのかは知らねえけどなぁ?!自称下僕発言やめろ!勝手に身分差作るのやめろ!…わかったか?!」
「あ…」
「…わかってんのかぁぁっ!…返事!」
「あぁぁ…」
(…あっ)
つい、調子に乗りすぎた。
あまりにも、イラッとしすぎてしまって。
それは、桃李の顔が歪んで、目に涙を溜めて泣きそうになっているのを目にして、はっと我に返ってから気付く。
「う、うぅぅ…」
しまった。
また…やらかしてしまった。
この高圧的な態度が、ヤツの自称下僕発言に繋がっているって、わかっていたのに…。
数分前に、謝ったばかりなのに…。
しかも、今のは。
照れ隠しではない。
八つ当たりだ。
ある意味、タチが悪い。
思い通りにならなくて、イラッとして。
…いや、桃李のバカさ加減にもイラッときていたけど。
同じことを、また繰り返してしまうなんて。
俺は、何てダメな…ヤツだ。
「ご、ごめん…」
「うぅぅ…」
「…本当に、ごめん!」
「やっぱり、さっきのは無しで…」
「…無しにはしない!」
俺は、最悪なヤツだよ。
…でも、それでも、ここだけは引き下がれない。
生憎、諦めが悪いんで。
どうにか…どうにかして、ちゃんとわかってもらわなければいけない。
思い違いも、俺の想いが本当だってことも。
今までのことも、すべて。
「…桃李」
「は、はいぃぃ…」
「話…聞いてほしいんだけど」