先生。
「とりあえず帰るか」
何も言わずに、ただそう一言だけ言って雑に私の顔を上げる。
必然的に合う私と司の目。
ああ、今絶対ひどい顔してる。
「ぶっさいく」
「…るさい」
それから司が家の車を呼んでくれて…さすがお金持ち。
司さんとか言われてた。
司のくせに。
赤信号で停まっている車のフロントガラスには、雨が滲んでいて。
車内には、カチカチとハザードの音が鳴り響いていた。
「すげー雨だな」
そう言って濡れた私にジャケットをかけてくれて、それ以上は何も聞かなかった。
そんな司の優しさにまた涙が溢れる。
すると、いつかみたいにギュッと握られる手。
良かった、雨で。
何にも聞こえないで、音をかき消してくれるから。