エリート弁護士は独占欲を隠さない
『自分でどうぞ』と言いたいのはやまやまだけど、一旦仕事の手を止め給湯室に向かう。
するとそこには外回りから帰ってきた先輩パラリーガルの松下(まつした)さんがいた。
肩下十五センチほどで緩くパーマがかかっている私とは違い、肩のあたりで切りそろえられたストレートの髪が印象的で知的な雰囲気が漂っている彼女は、三つ年上。
法学部を卒業していて、弁護士を目指して勉強中だ。
「松下さん、お疲れさまです。私、淹れますよ?」
「ありがと。でも手伝うわ」
コーヒー豆を棚から出しながら、彼女は口を開く。
「毎日毎日、絞られてるわね」
「もー、鬼ですよ、九条さん」
大げさに肩をすくめてみせると、ケラケラ笑われる。
彼女がついているのは五十代のベテラン弁護士で、九条さんの師匠的な存在の迫田(さこた)先生だ。
迫田先生は、ここ東京事務所の重鎮。彼に憧れてこの事務所に来たという弁護士も多数いる。
おそらく九条さんもそのひとり。