エリート弁護士は独占欲を隠さない
「ハードルが高ければ高いほど燃えるタイプよ。九条さん、それがわかっててわざと無理難題を言っている気がするなぁ」
「えー、そうでしょうか?」
そんなことを考えているとは思えないんだけど。
「うん。だって彼、迫田先生の下で研修していたときは、すごく物腰柔らかだったらしいよ。五十嵐さんの前に付いてたパラリーガルも、そんなに叱られてなかったし」
「そうじゃないですよ。私を見ているとできなさすぎてイライラするんだと思います。頑張って見返します」
「ほら。『辞めます』じゃなくて『頑張って見返します』でしょ? やっぱりいいコンビだと思うな」
彼女はクスクス笑いながら、ドリップされるコーヒーを見つめている。
「でも九条さん、どうして大きい刑事事件はやらなくなったんだろ」
「どうしてでしょう……」
松下さんのつぶやきにハッとした。
たしかに彼が扱うのは会社間紛争、破産事件、交通事故などの民事事件か、刑事事件の中でも罰金刑で済みそうなちょっとしたケンカや、不起訴の可能性が高い器物損壊などの案件ばかり。