エリート弁護士は独占欲を隠さない
「はい。朝日法律事務所です」
この電話対応が一番苦手。
裁判所からかかってくることも多く、絶対に聞き漏らしがあってはならないからだ。
『東京簡易裁判所、鈴村(すずむら)と申します。平成三十年(ハ)第百二十一号事件につきまして、お話がございます。九条先生はいらっしゃいますでしょうか?』
電話を片手に素早くメモを取り、復唱する。
「平成三十年(ハ)第百二十一号事件ですね。少々お待ちくださいませ」
(ハ)というのは、事件の種類を区別するための記号で、民事訴訟で、簡易裁判所の第一審訴訟事件を表している。
初めて耳にしたときは“ハ”って?と疑問符だらけになり、専門用語の多さと難しさを痛感した。
まだ慣れない頃は何度も聞き直していたけれど、最近は一度で聞き取れるようになってきた。
九条さんに取り次ぐと、すぐにまた次の電話。
「はい。朝日法律事務所です」
『私、三田(みた)と申します。先日弁護士さんにお送りした書類のことで相談が……。取り次いでいただけますか?』
ずいぶん曖昧な電話で、首を傾げる。