星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「え、と…ここ…空欄に何が入るかっていうので…」


 速まる鼓動。
 教科書を指す指が震える。


「あぁ、これ?」


 耳元で先生の声がする。
 甘い声に痺れたように上手く息が吸えなくなる。


(く…苦しい…)


「これはまず…」

 先生が解説を始めるけれど、頭に入ってこない。
 いつものように隣に居てくれればちゃんと分かるのに。

 嬉しくないわけじゃないけど、じゃないけど、でもこれじゃ勉強にはならないよ…


 先生の声。
 先生の気配。
 加速する鼓動。


「構文が当てはまるから…って、聞いてる?」

「き、き、聞いてます!」

「ふぅん…」


 一瞬の間。


そして…


「ねぇ」


と先生が更に体を寄せる。


「!!」


 私の肩に先生の胸が触れて、肩先がびくっと震えてしまう。

 そして先生が私の耳元で吐息混じりに言う。



「南条…良い匂いする」


「!!」


 パープルのオードトワレ。

 この間、先生が『南条の匂い』って言った。

 いつもは学校に着けてなかったけれど、先生が『良い匂いがする』って言ったから、ハンカチに少し着けて来るようになった。


 先生が触れる距離にいること。

『良い匂い』と言われたこと。

 好きな人に自分の香りを聞かれていること。

『良い匂い』と言われた香りをあえて着けるあざとい行動に気付かれてるんじゃないかということ。


 そんなドキドキが全て同時に身体中を駆け巡る。


(もうドキドキし過ぎてわけ分かんないよ…)
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