星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 見つめ合ったまま動けずにいると、先生が呟くように言った。


「…ごめん」


 その声は低く掠れて、教室の静けさに溶けていく。


 私はようやく金縛りが解けたみたいに、のろのろと掌で口を覆い俯いた。


(先生…私…)


 初めてのキスだった。

 大好きな先生とのキスだった。


 でも突然のことで。


 それに先生は…


『当たり前だろ。
 教え子好きじゃない教師とかダメでしょ?』─


(先生…何考えてるの…?)


 ただでさえ動揺して何も考えられないでいるのに、先生の行動は、気持ちは本当に本当にわけが分からなくて、どこまでも私の気持ちを乱す。
 そしてもう、自分自身の気持ちも、これから自分がどうしていいかも考えられなくなる。


 そんな中で、先生の視線が私に注がれているのを感じて、居たたまれなくなる。


(先生、なんで…キス、したの?
 なんでそんな眼をするの…?)


 頭の中が縺れたまま腕を掴む先生の手を振り切り、そして手元のドアをがっと開いて教室を走り出た。

 廊下を走り、階段を駆け降りるうちに涙が溢れてくる。
 苦しくて苦しくて仕方ないのに、私は夢中で駆けた。


 どうして先生に逢う度に涙が出るんだろう。

 どうして涙が出るほどに好きなのに忘れられると思ったんだろう。

 どうして先生は私を『生徒』だとか『妹』だとか言いながら、私の気持ちを離してくれないんだろう─

       *   *   *
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