星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 自宅の最寄りの駅に着くと、


「よぅ」

 清瀬くんが待っていた。


「何その顔」

 清瀬くんの言葉にどきっとする。


『何か』あったこと、悟られちゃだめだ…


「あ…ちょっと委員会で揉めちゃって…」

 えへへと笑って見せる。


「舞奈は生真面目だからな、ガキの頃からだけど。あんま頑張んなよ」


 清瀬くんの手ががしがしと私の頭を撫でる。
 その手があったかくて、心が痛む。


「…ん」


 当たり前のように清瀬くんが私の手を握る。


「舞奈、どう?土日」

 昨日も言われてた。土日デートしよう、って。


「うん…やっぱ勉強したいから、やめときたいかな…」

「なんだよ。今言ったばっかじゃん。生真面目に頑張んなって」

「でも来週から学校も試験だし」

「あ!じゃあさ…」


 清瀬くんが何か良いことを思い付いたとばかりにパチンと指を鳴らし、その指で私を指す。


「塾の自習室で一緒に勉強しよ!で、帰り飯食ってこ!それならどう?」

 清瀬くんは眼をきらきらさせて私を覗き込む。


(そんな顔されちゃ断れないよ)


「…分かった。いいよ」


 清瀬くんが繋いでいた手の指を絡ませてくる。


「ちょっとそれは…」

「なんで?いいじゃん?照れてんの?」

「…うぅ」


 恥ずかしい、というか、やっぱり私の中でまだ清瀬くんと私はちゃんとカレカノになれてない感じがしてるんだと思う。

 こういうのはなんか…

 落ち着かない。



 ふと先生の漆黒に憂えた瞳を思い出す。


 そして、唇の感触を…


 先生のこと、まだ忘れ切れてないのに、清瀬くんとの関係が腑に落ちるわけない…


「舞奈?」


 清瀬くんの呼び掛けに我に返る。


(いけない、気付かれちゃう…)


「ごはん、何食べに行こっか?」

「ファミレスでよくね?長居したいっしょ?」


 清瀬くんと私は日曜日の午後、また駅で待ち合わせる約束をして別れた。

       *   *   *
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