星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 清瀬くんの方を見ていられずに俯く。
 街灯の灯りに枯れた木々とブランコの影が長く伸びている。



「嫌だ」


「えっ!」


 清瀬くんの返事に驚いて顔を上げると、清瀬くんは可笑しそうに

「ははっ!」

と笑った。


「嘘。
 元々1週間お試しって言ったろ?」

「あ…」

「お試し期間に落とせなかった俺の負け。だからそんな暗い顔すんな」


 清瀬くんは立ち上がって、私の頭をくしゃっと撫でた。


「清瀬くん…ごめん…」


 清瀬くんの掌は優しくて優し過ぎて、胸の奥がきゅっとなる。

 泣いたらきっと清瀬くんを困らせてしまう。

 分かっているのに堪えきれなくて、涙はぽろぽろと零れて落ちた。


「ほら。やっぱここにして正解」


 清瀬くんはもう一度頭を撫でてから、今度は私の両肩に掌を乗せた。

 その掌にきゅっと力が入る。


 きっとこの間みたいに腕の中で泣きたいだけ泣けばいいよ、と抱き締められる…


 涙に曇る中でそんなことを考えていたら、不意に清瀬くんの手が離れた。



「自分で泣き止めよ?

 もう胸貸してやるの俺の仕事じゃねーからな」


 清瀬くんは私から離した手をポケットに突っ込む。


「あーぁ。天体観測会ん時やっぱお前のこと諦めなきゃ良かったなぁ。そしたらお前があのイケメン先生に出逢う前に俺のもんになってたかもしんねーのに」

「……」

「一度逃したチャンスは、簡単に二度目は回って来ねーんだよ。
 だからお前のせいじゃないから泣くな」


 そう言って清瀬くんはにっこり笑った。


 怒ってると思ったのに、むしろ笑ってて。

 優し過ぎるほど優しいのに『嫌だ』なんて冗談言って、『自分で泣き止めよ?』なんて突き放してみたりして。

 優しさに胸が痛むのに、でもそんな清瀬くんの笑顔に吃驚して、止めどなく流れていた涙が一瞬止まった。


 あぁ、そうだ。もう泣いちゃいけない。

 もう清瀬くんに甘えちゃいけない。

 泣き止まなきゃ、自分で。


 唇を噛み、瞳を大きく開く。

 これ以上涙が溢れないように─


「泣き止んだ?じゃ帰ろ?」


 清瀬くんは私の顔をちらっと見て確認すると、ポケットに手を突っ込んだままどんどん公園の出口に向かって行く。

 私も清瀬くんを追いかけるように彼の一歩後ろを付いて公園を出た。
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