星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 それから前を歩く清瀬くんは私の家の前まで来ると、別れ際に言った。


「なぁ舞奈、ひとつだけ覚えてて欲しいんだけど」

「何?」

「俺とお前、幼馴染みだから」

「えっ?」

「お前、俺のこと全然覚えてねーけどさ。でも間違いなく俺、お前の最初の男友達だから」

「……」


「舞奈はそんなこと思ったこともないかもだけど、でも、俺は幼馴染みだと思ってるし、舞奈のこと大切に思ってるし、これからも困ったときは頼ってくれていいと思ってる。

 だからこれからは舞奈も俺のことそう思ってくれたらいいな、って思ってるから」


「清瀬くん…ありがとう」


「でも…」


 清瀬くんが私の顔を覗き込む。


「俺はいつでも幼馴染みをやめる覚悟があるけどな」

「?」


「イケメン先生がお前のこと泣かすような時はいつでも俺は幼馴染みやめてお前のこと迎えに行く気だから。
 それも併せて覚えてて」


「えっ!」


 清瀬くんはまた「くくっ!」と笑うと、

「じゃな」

とひらひら手を振り、私に背を向けて帰って行った。


(清瀬くん…ありがとう…)


 辛いときに傍に居てくれて。

 私と先生のために、優しい言葉と共に身を退いてくれて。

 幼馴染みになってくれて─


 先生は優しい。

 そして清瀬くんも優しい。


 優しい人たちに囲まれて、救われて、そして私はこうしてなんとか生きているんだ。


 私を取り巻く優しい人たちに心から感謝して、私は小さくなった清瀬くんの背中にもう一度呟く。


「清瀬くん、ありがとう」


       *   *   *
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