星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 翌日の放課後、一番星が空に上がる頃、私は英語準備室を訪ねた。

 いつもの廊下を進むのももどかしく、気付くとどんどん早足になっていて、足が縺れるようにしてドアの前に辿り着く。


(先生に逢うのに顔がにやにやしちゃうよーっ!)


 両の頬を掌で包み、(落ち着け私!)と心で言い聞かせ、高鳴る胸を抑えてノックする。

 がらがらと引き戸を開け、

「し、失礼します!」

発した声は上擦ってしまう。

(うゎ…やだもう私ってば恥ずかし過ぎ…)


「南条!」


 デスクに向かって何か仕事をしていた先生は、ドアから覗き込む私を見るとにこやかに迎えてくれた。

 可愛い先生の微笑みにきゅんとしてしまう。


(あー!なんかもうっ!どうしよう!!)


 いつもと同じなのに、いつもと違う。
 先生と気持ちが通じ合ってはじめてのふたりきりの時間。

 部屋に入ってもなんだかドキドキしてしまってドアの傍で立ち尽くしていると、先生に声を掛けられる。


「座ってよ、いつもみたいに。
 ただでさえなんか…いつもと違って気恥ずかしいから」


 そう言って先生は照れ臭そうに笑ってくしゃくしゃと頭を掻いた。


(先生でも恥ずかしかったりするんだ…)


 それがなんだか嬉しくって、でもやっぱり更に恥ずかしくって、ますますドキドキしてしまう。

「聞きたいとこはない?英語」

 言いながら先生が自分の席から立ち上がる。


「うん、今日はない」

 私はいつもの椅子に座る。


「そっか」


 先生は私からテーブルを挟んだ向かいの椅子に横向きに腰掛けた。

 それから自分のデスクの下から持ってきたデパートの紙袋を私の前にとんと置く。
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