星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 先生の手が一瞬きゅっと私の手を包むように握られ、それからそっと離れた。


「…ごめん南条。今日はちょっと急用が出来て」

「あ、じゃあもう帰るね」

「うん」


 先生と準備室を出て、誰もいない廊下をふたりで歩く。


「先生は職員室に用事?」

「どうかな?体育館かも」

「体育館?」

「いいよ、南条には関係ないことだから」

「ふぅん?」


 体育館なら仁科先生かな?
 ふたりが仲が良いらしいことをこの間初めて知った。


「暗いから気を付けて帰れよ」


 エントランスまで来たとき、先生の指が私の頬に触れた。
 鳶色の瞳の優しく柔らかな眼差しが私を見下ろす。


「うん…またね」

「さよなら」


 体育館に向かう先生の後ろ姿を見送って、私は学校を出た。



(どうしようっ!イブにデートでイルミネーションとか!うゎぁ!ドキドキしちゃうっ!!)


 ひとりになると改めてデートの約束を思い返して舞い上がってしまう。

 両手を胸に重ねる。
 先生の手のぬくもりを思い出して、ますます心臓が落ち着かなく騒ぐ。


(あ!そうだ!何着て行こう!?白いマフラーに合う服、思い切って買っちゃおうかな)


 いつしか足取りも夢の中を歩くみたいにふわふわする。


(ホントに夢だったらどうしよう…)



『24日、イルミネーション行こう』


 先生の声がまだ耳の奥に残っている。

 これは夢のような素晴らしい現実。


 想いが私に甘い熱を帯びさせるのか、冷々とした夜の空気も空も今夜は冷たいとは感じないくらい、私はほこほこと幸せを感じながらひとり帰途を辿った。

       *   *   *
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