星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 電話が切れると無意識に深い溜め息が出た。

 先生と私のことをあんなに応援してくれていた夜璃子さんを欺いてしまったようで心苦しかった。


 受験勉強に打ち込んで先生のことはなるべく気に留めないようにしていた。
 出来ることならこのまま忘れてしまいたかった。

 でも、ほんの些細な契機で先生のことを思い出してしまう。
 その度に胸はときめき、決意はぐらついてしまうんだ。


(先生に…逢いたいなぁ)

 そんなこと、思っちゃいけないのに。


『南条』

 私を呼ぶ優しい声。鳶色の瞳。柔らかな笑顔。温かい掌。


 忘れられるわけない、離れられるわけない─


 分かりきってるのに、それでも私は受け入れた。

『別れよう』って言葉を─ 


 嫌、って言えなかった。
 どうして、って訊けなかった。


 ベッドに座り込んで呟く。


「逢いたいよ…」


 逢いたいって、思うだけなら許される?

 逢いたいって、独り言だけなら許される?

           *
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