次期社長と訳あり偽装恋愛

「喉が痛くてむせたんじゃない?」

「いえ、そういうわけでは……」

「確かにこの前、河野さん体調を崩してたよね」

高柳課長も心配そうに言ってくる。
えー、もう元気なんですけど。

「念の為、医務室で診てもらった方がいいから連れて行くわ。高柳、トレイの片付け頼んだぞ。行こう、河野さん」

「まぁ、それは別にいいけどっておい!」

立花さんは私に立つように促し、強引に片付けを高柳課長に押し付け食堂を出る。

私は訳も分からず立花さんの後を追う。

「あの、大丈夫ですよ。風邪はもう治ってるので」

「分かってる」

医務室に行く必要がないので、思わず声をかけたけど一蹴された。
エレベーターで一階まで降り、医務室へ向かう。
ドアをノックし、立花さんが入って行く。
ここまで来て引き返すことも出来ず、私も医務室に足を踏み入れた。

「武さん、少しの間、この部屋使わせてもらってもいい?」

「翔真か。何だよ、藪から棒に」

立花さんは椅子に座っていた白衣の男性に声をかけた。

医務室にはベッドが三つあったり、薬品棚があったりと学校の保健室みたいだ。

この前、体調を崩した時は医務室には寄らずに早退した。
だから入社して初めて医務室に入り、ソワソワしてしまう。
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