次期社長と訳あり偽装恋愛

「はぁ」

休憩スペースの壁にもたれて俯き、ため息をつく。
昼休憩後、高柳課長から企画のダメ出しを食らった。
詰めが甘いと言われ、確かにそうだよなと反省中。

ターゲットを絞りきれてないまま企画を考えたのがいけなかったんだ。
情けなさに髪の毛をグシャっと乱し、再びため息をついた。

「河野さん?」

名前を呼ばれて顔をあげると、心配そうに私を見つめる長身のイケメンがいた。

「た、立花課長」

「ため息ついてたけど、何かあったの?」

「えっ……いえ、ちょっと休憩してました」

仕事でダメ出しされて反省中です、なんて言えない。
不意に立花さんの手が伸びてきて私の髪の毛を触り、驚きで目を見開いた。

「乱れてる」

そう言って私のグジャグジャになった前髪を綺麗に直してくれた。
私は恥ずかしさに顔が赤く染まる。

「そうそう、弁当美味かったよ。ありがとう」

「お口にあってよかったです」

「河野さんの味付けは本当に俺好みだよ」

味付けが好みと言われて嬉しいけど、どう反応すればいいのか困る。
そうだ、立花さんはあの噂を知っているんだろうか。

「立花課長、社食でのこと噂になってるみたいなんですけど」

さっき、玲奈からもメッセージが届いた。
《立花さん、彼女からのお弁当を食べていたって!彼女、いつできたんだろうね?》
私は《へぇ、そうなんだ》としか返信できなかった。
昼休憩の出来事なのに、広報部の玲奈のところまで噂が広まっていた。
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