次期社長と訳あり偽装恋愛

土曜日、親友の上原舞と会う約束をしていた。
舞とは母親同士も親友で生まれた時からの付き合いだ。
今は化粧品会社で働いている。
いつもバッチリメイク、肩までのボブヘアでスラリとした長身の美人さん。 

舞が小学校卒業と同時に引っ越してから少し疎遠になったけど、同じ高校に入学して私たちの付き合いは復活した。
ちなみに、舞には双子の兄の颯太がいる。
頭がよくてトップクラスの進学校に合格し、そこからエリートコースまっしぐらだ。

駅で待ち合わせをし、ある場所を目指す。
ある場所とは『ダークムーン』、いとこの小林音波の兄、朔斗がオーナーをしているバー。

大袈裟かもしれないけど、私にとってトラウマの場所でもある。
でも、立花さんと会ったことで恋に対して前向きに考えられるようになった。
その上で、先日音波ちゃんと話してから自分でも驚くぐらいここに行くことに抵抗はなくなっていた。

大通りから一本裏道に入ると、いくつもの雑居ビルが立ち並んでいる。
お洒落な雑貨屋や飲食店が目立つけど、そのバーは油断していたら通り過ぎてしまうほどひっそりと佇んでいる。
まさに、隠れ家的存在の店。

五年振りか……。
いざ、店の前に立つと緊張する。

「どうしたの?」

店の前から動こうとしない私を舞が不思議そうに見ている。

「どうもしないよ。入ろうか」

意を決してシンプルな木製のドアを開けた。
< 63 / 212 >

この作品をシェア

pagetop