次期社長と訳あり偽装恋愛

カラン、とドアベルが鳴る。
店内は薄暗く落ち着いた雰囲気でBGMにジャズが流れている。
私はゆっくりと店内を見回した。

席はカウンターの十席のみ。
そのカウンターの奥の棚にはたくさんの種類のお酒の瓶が並べられている。
あの時と全く変わってない。

お客さんは年配の男の人が一人、カウンターの隅で静かにお酒を飲んでいた。

「いらっしゃいませ」

バーテンダーの低くてよく通る声にドキッとした。
私は小さく息を吐き、笑顔を見せた。

「こんばんは」

「えっ、梨音か?」

「久しぶり、朔ちゃん」

朔ちゃんは驚いて目を見開いた後、嬉しそうに笑う。
音波ちゃんから朔ちゃんが私のことを心配してくれているという話を聞いていた。
さっきの表情からホントに私のことを思ってくれていたんだなというのが伝わってきた。

「久しぶり。よく来てくれたな」

「うん。舞、座ろうか」

私は照れくささで少しはにかみながら席に座った。

今日は、舞が話があると私を誘ってきた。
電話で話していても、少し歯切れが悪くて気にはなっていた。

食事をしながらとか、そんな感じで話すようなことじゃないのかなと思い、ゆっくり話せる場所で私が思いつくのはこのバーしかなかった。

前の私ならバーに来ることは躊躇していた。
だけど、前向きに進めている今なら大丈夫な気がしたので、舞とこのバーで会う約束をした。
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