血だらけペガサス
体育館が生徒で騒がしくなってきた頃、
倫太郎はいつもより辺りをキョロキョロと見回した。
あの少女の姿がないか確認する為である。
しかしいくら顔や目玉を動かしていても少女らしき人の姿を見る事は出来なかった。
体育館に来ていないということは、
おそらくこの学校にはいないのだろう、と落胆する。
実在するかもしれない現実と、
実在しないかもしれない現実が交差している。
倫太郎はシュレーディンガーの猫の話を思い出した。
猫を箱の中に閉じ込めて、二分の一で毒ガスが発生する装置を付けて置く。
開けてみて、猫が生きているかそうでないか確認するまでは、箱の中に、生きている状態の猫と死んでいる状態の猫のどちらも同時に存在するという思考実験である。
とても猫が可哀そうだ。
命は無駄にするものではない。
そのとき倫太郎は、体育館の入り口のところに今朝見た少女とよく似た生徒がいるのを発見した。
先生と話をしているみたいだ。
一瞬、ハッと目を見開いた。
ドキッと心臓が脈打った。
話しかけなくてはと足が動く。
「おい倫太郎ぉー」
後ろから声がした。
思わず振り向く。
「青柳ってさあ、霊感あるんだよな?」
今朝とは別の男子だった。
倫太郎は人の名前を覚えるのが苦手だったので、
相手が自分の名前を覚えていることに申し訳なさを感じてしまう。
反対に、霊感少年というのは不本意なレッテルだった。
みんなが見ていないところでよく発狂をするので、ぜんぜん恰好良いモノではない。
「ああ、いや、俺のは……何て言ったらいいんだろう。比較的、無いほうなんだよ」
「あ? 無いほう?」
「う……うん」
ほどなくして先生からの注意が入る。
校長の話が始まるから、静かにと。
倫太郎たちはピシャリと前を向いた。
前ならえ。直れ。こんな軍隊みたいことをして何になるのかと考えてみるが、べつに害を受けてる訳ではないので文句はいわない。