御曹司様の求愛から逃れられません!
すると私の返答を聞いた彼はよろけたように一歩下がり、クシャッと整った髪を崩した。
しかしすぐに持ち直し、私に謎の質問を続ける。

「じゃ、じゃあ、いっそ海外に住んじまうのはどうなんだ?ほら、前にハリウッド行ってみたいって言ってたろ?」

「え!住むなんてもっと嫌ですよ!言葉も通じないし、日本みたいに安全じゃないんでしょうし……。行くのと住むのとじゃ、全然違いますから」

そのとき、私たちの間を流れる桜が、寂しく足下に落ちていった。
周囲の騒がしい声も、一瞬聞こえなくなった気がする。それだけ絢人さんの纏う空気が張り詰めて、遠くなった気がしたのだ。

「……そっか」

いきなり、今度は元気のない声。

「絢人さん?」

「いいんだ、ごめん。……真夏、俺のこと忘れないで」

「忘れませんよ!ずっと大好きな“先輩”です。絢人さんこそ、たまには大学に遊びに来て下さい」

「……ああ。行けたら、そうするよ」

そう言うと、彼は霞むように笑った。
その顔が目に焼き付いて、彼が立ち去った後もしばらく頭から消えずにいた。なぜか私はそのとき、二度と絢人さんに会えないような気分になったのだ。

それから『月味フーズ』で運命的に再会するまで、私と絢人さんが顔を合わせることはなかった。
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