御曹司様の求愛から逃れられません!
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「……えーと。樫木さん。落ち着きました?」

まずはお冷やを頼もうと思っていたのに、泣き腫らした樫木さんが勝手にビールを注文した。ここには避難してきただけなんだけど、これでは樫木さんと私で普通にサシ飲みをする形になっている。……まあそれでもいいですけど。

「ええ……だいぶ。園川さんも飲んでください。今日は僕のおごりです」

「は、はあ……それじゃあ、遠慮なく」

控えめに甘いカクテルを頼み、形だけの乾杯をした。
グラスに口をつけながら、この不思議な状況がいまだに飲み込めていない。この間は絢人さんと飲んで、今日はその補佐である樫木さんとなぜかふたり……。

「……僕には、志岐本部長がすべてなんです」

唐突にそう呟いた彼に、私はカクテルを吹き出しそうになった。
偏屈な顔をポッと赤らめている。
……な、何?それってどういう意味?

「そ、それは……本部長のこと……」

「尊敬しているんです。とても。あの方に憧れて、アメリカにも、中国にも、オーストラリアにも同行しました。……志岐本部長は御曹司という立場ですが、それを抜きにしても、あの方の持つカリスマ性は素晴らしい」

ピリピリして仲が悪いのかと思っていたのに、予想外に絢人さんを誉めちぎる樫木さんに、私は息を飲んだ。
カリスマ性……。そう、私も、学生時代はそんな絢人さんに憧れていたから、よく分かる。人を巻き込んで突き進むあのとんでもない電光石火なところ。
私も樫木さんと同じ。彼をそばで見ていたくて、どこまでも付いていったひとりだった。
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