御曹司様の求愛から逃れられません!
「真夏。酷いことしてゴメン」

彼は、やっと今夜のことを謝った。気がかりがすべて片付いてから、強引にこのベッドに押し倒したことを思い出したんだろう。
私は首を振った。

「大丈夫です」

「乱暴なことをするつもりじゃなかった。でも他の男に抱かれてるのを見たら、頭に血が昇って……」

「珍しいですね、絢人さんが感情的になるなんて」

「……本当に、真夏にだけだよ、こんなのは。昔からそうなんだ。お前が影で苦しんでたり、誰かに言い寄られてんの見ると、自分を抑えられなくなる。……お前のことが好きだから」

絢人さんは心臓のあたりをグッと押さえながらそう言った。……すごい、私の心臓もドキドキしてる。

「真夏、あのさ……また、明日も時間ある?」

「す、少しなら」

「もう一回。……今度はちゃんと、優しく抱きたいんだ。いいだろ?」

「…………はい」

嘘をつかれ続けようって決めた後の言葉でも、こんなに胸が熱くなるなんて。

私は怖くなった。いつか後悔するんじゃないだろうか。彼の遊びに付き合うと決めたのに、いざ婚約者をまた目にしたら苦しくなるのかもしれない。

……痛い目を見るって、そういうことだ。そこに自分から飛び込んだのだから、仕方のないこと。いつか来るその日がすでに恐ろしくて、私も心臓を押さえていた。

……私はもう誤魔化せないくらい、絢人さんのことが好きになっているって分かったから。
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