御曹司様の求愛から逃れられません！
家に帰る足取りは重くなった。
恵比寿まで一本なのに、駅のホームに立つと電車に乗れる気がしなかった。

どこかに絢人さんがいるかもしれない。恵比寿駅の前かもしれないし、私のマンションの前とか、また部屋の前で待っているのかも。
それに遭遇したら、私たちの関係は終わる。

まやかしだったとしても、もう絢人さんとキスしたり、抱いてもらえることはなくなるのかもしれない。予想していたことなのに、胸騒ぎのように気持ちがザワザワと揺れていた。

……帰りたくない。絢人さんに会いたくない。会ったら何もかも終わってしまう。

ここまで彼に執着していたことに自分自身驚いた。
目の前に着いた電車に恐怖症のように乗れずにいたため、これは無理だと思って、日野さんに電話をかけた。

「もしもし。日野さん、今大丈夫？」

『うん。突然どうしたの？』

「……もし迷惑じゃなければ、なんだけど。今夜泊めてもらうことってできないかな」

日野さんには、こちらの電車が出発する音が聞こえているはず。そのアナウンスと電車の音が終わってから、彼女は話し出した。

『うん、いいよ。なんか問題でも起きた？』

「……そんなとこ。ごめん、会ってから話すね。直接部屋まで行っていい？」

『オッケー、待ってる』

私は反対のホームへ立ち、次の電車を待った。
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