御曹司様の求愛から逃れられません!
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「……あ」

会社の裏手にあるカフェに入るつもりだった。華やかな表通りではなくビルの陰になっているため、表のお店に比べていつも空いているのだ。

そこへ向かう途中、会社の裏口から玲奈さんが出てくるのを目撃する。
……とりあえず、私は隠れた。

絢人さんも彼女を見送りに来ている。……玲奈さんがペラペラと喋っていて、絢人さんは心ここにあらずという感じ。「聞いてる?」と言われ「あ、ああ」とどうにか返事をしているようなやりとりが、唇の動きで分かった。
玲奈さん、やっぱり……あんなこと言ってても、絢人さんのこと好きなんじゃないのかな。

もちろん応援なんてできない。でも、彼女以上に相応しい相手になれる自信がない。
見ただけで分かるもの。私とは纏っている気品が違う。絢人さんと同じものを玲奈さんは持っている気がするのだ。

「何してるの」

「わっ!」

物陰に隠れていたつもりなのに、そばにはあの玲奈さんがいた。
慌てて姿勢を正してたまたま通りかかった芝居をしようと不自然な動きをしてみるが、彼女は冷たい表情を変えない。……見てたの、バレてる。

観念して、彼女と向き合って俯いた。
近くで見ると宝石みたいに綺麗な玲奈さんに、足が震えてくる。
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