優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。
たゆたう水面に、思いを馳せる。それほど退屈だった。
 今日一日、退屈で、息苦しいだけだった。

 それは誰かと合わせて、そこにいなきゃいけなかったから。


でも今、私の名字を呼びながら美術室へ入ってきた人を見て息を飲んだ。

「えっと陣之内くん」

 出荷されなかったキラキラ組の人だ。なんで私をこの人が呼ぶんだろう。
 はっきり言って視界にも入っていないと思っていたのに。

「これ、紗矢がお前に返しといてって」
「紗矢ちゃんの……。あ、髪ゴム。ありがとう」

 立ち上がって受け取る。彼の横に立ってみると、香水の匂いがしたし、大きくて影にすっぽり隠れてしまって怖かった。

後ろに一つで結んでいた髪は、ほつれだしてきていたので解いて結び直したかった。
のに、なぜか彼はそのまま入ってきて、私の机の隣に座る。百合ちゃんがビビッて準備室の中に入って出てこなくなってしまった。

「あの……何?」
「いや、髪綺麗だなって。結ぶの見てていい?」
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