【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「そんな。嫌ってなんか、ないです」

とっても苦手ですけど──という言葉は、ゴクリと飲み込んだ。

マグカップの熱が掌からゆっくりと伝わり、部屋の中も暖まってきたからか、少しずつ気持ちが落ち着き始めた。

愛川先生の「良かった」の声に、そろりと顔を上げる。と目に飛び込んできた彼の普段とは違う笑顔に、一瞬で心を囚われてしまう。

何、今の笑顔。なんなの、この気持ち……。

物心ついてから今まで、男性の笑顔に何かを感じたことは一回もない。しかも相手は、あの苦手な愛川先生だよ? そんなことあり得る?

自分の身に起こった初めての感情に胸が苦しくなる。愛川先生から慌てて目を逸ら、胸元をグッと押さえた。

今の心臓がドキンと跳ねたのは、一体何だったのだろう。

考えても答えが出ない問に顔は熱くなり、心臓だけでなく頭までショートしてしまいそうだ。

自分の男性経験の無さに落ち込み、こちらもまた盛大な溜息をつく。

「すっごい溜息。それってなんの溜息か聞いてもいい?」

突然耳に飛び込んできた声は愛川先生の息が感じられるほど近く、くすぐったさに肩を窄めた。ゆっくり振り向くと、顔をガッチリと両手で挟まれてしまった。

ひいぃぃぃーっ!! こ、こ、この状況って……。

声にならない声を出し、思いっきり体を逸らす。

「な、なにするんですかっ!?」

抵抗を試みるがわたしの力など大人の男の力に敵うはずもなく、元の位置へと有無を言わさず戻されてしまった。



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