【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
冗談なら、そういうことは言わないでほしい。からかうなら、他をあたってよ。

泣くもんかと堪えていた涙が、目に溜まっていく。泣き顔を見られたくなくて俯くと、ゆっくりと近づいてきた愛川先生に引き寄せられ、そのまま抱きしめられた。

「勝手だよな。でも蘭子のファーストキスを、他の男に奪われるわけにはいかなかった。なあ蘭子、顔を上げてくれないか?」

ほんとに勝手だ──と思いながらも顔を上げる。どこか釈然としないまま、愛川先生のことを見た。優しい目をしている。

「蘭子。前からずっと、お前のことが好きだった」
「え?」

突然の思いも寄らない告白に、目を大きく見開き、口はポカンと開いたまま。とんでもない顔になっている自覚はあっても、今のわたしにはどうすることもできない。

前からずっと好きだった?

そんなことを言われても全然ピンとこない。だってわたしと愛川先生の間には、今までなんの接点もなかった。総合受付で顔を合わすことがあっても、いつも挨拶程度。口腔外科医と受付スタッフ、それ以上でも以下でもない──そう思っていたから。

でも今、私の瞳に映る愛川先生の真剣な表情は、まんざら嘘を言っているようには見えない。でもだからといって私の同意も得ず、勝手にキスしたことは許されざる行為だ。

「ずっとって、いつからですか? ちゃんと話してください。わたしのファーストキスを奪ったことを許すか許さないかは、愛川先生の話を聞いてから決めます」

何回も言うようだが、ファーストキスを奪われたのだ。私には話を聞く権利がある。

今までは一ヶ月お世話になるからと、おとなしく下手に出ていた。けれど……。

形勢逆転──

ファーストキスの代償は高いんだから!

強い意志を持った目で愛川先生を見つめ、彼の体をぐっと押し離した。




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