【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「おまえなぁ……ったく。もう一回、口開けて」
今度は素直に口を開く。
「ここも痛いだろ」
「うぅ……っ」
金属の棒のようなもので歯茎を突かれると、飛び上がりたくなるほどの痛みが走る。
「いたいやないれすか!」
口を開けたまま話したせいで、おかしな発音になってしまった。
「抜歯だな」
「へ?」
「腫れもひどいし膿も出てる。一度炎症を起こした智歯は、炎症を繰り返すことが多いからな」
抜歯。それって歯を抜くってことだよね? まさかいきなり、そんなことになるなんて……。
「智歯が歯茎の中に埋もれてるからな、切開して歯を取り出す」
「切開……」
頭の中で歯茎を切り開かれる様子が繰り広げられ、考えただけで憂鬱になる。
生まれてこの方、虫歯にもなったことがない。小学生の頃には歯科健康優良児で表彰されたこともあるというのに、なんで歯を抜かなくちゃいけないのか。
急なことに血の気が引く。
「どうした? 不安そうな顔して」
「切開って言われて、不安にならない人はいません!」
大きな溜息をつき、両手で顔を覆った。
「椅子起こすから、一度口をゆすげ」
そう言われたのと同時にユニットの椅子が上げられ、口の中をぶくぶくゆすぐと水を吐き出した。