勇気の魔法は恋の始まり。
「受験の時に見かけたんだよ、俺が杏を。」

 聞くと、受験の日に杏が人助けをしているところに遭遇したらしい。

 子供が階段から落ちかけたところを見ていた杏がすぐさま駆け寄り、妊婦でお腹の大きい母親の代わりに抱き上げてすぐ近くの保育園まで一緒に送り届けたそうだ。

 北斗はその時の杏が子供に向けた笑顔で素敵な人だと思っていたらしく、合格発表時に杏を見かけて話しかけたそうだ。

「でも、いい人だから、素敵な人だと思ったから好きになったわけじゃないよ。」
 
 北斗はそう言った。

 意味がわからなかった。

 人を好きになるのは素敵だと思ったからじゃないのか。

 素敵だと思ってないのに好きになんてなるのか。

「俺らと、反対側にいたから。」

「反対側…?」

 水帆は思わず北斗の言葉を繰り返す。

 北斗はただ真剣で、冷静で、とても優しい目をしていた。
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