片翼の蝶



にやりと笑った真紀は
私に向かって手を伸ばした。


その手は心臓に向かって伸びてくる。


触られる、というか乗り移られる!
と思って身を引くと、
真紀はおかしそうに笑った。


〈冗談よ。触れないから安心して。
 だってあなた、生きているもの〉


触れないのは分かっているけれど、
幽霊は人に乗り移れるというのを
目の当たりにしたために恐怖が走る。


この体を利用されたくない。


警戒して真紀を睨むと、
真紀はきょとんとした顔をした。


〈茜は乗り移られるのが怖いんだよな〉


珀が淡々とそう言うと、真紀はああ、と頷いた。


〈安心して。乗り移ったりしないわ。
 あたし、嫌なのよね。乗り移るの〉


真紀は腕を組んでそう言った。


肩までに切りそろえられた黒髪が風に靡く。


大きな眸が微かに揺れた。


私はそんな真紀の眸を見つめた。


〈でも、あたしに茜を貸して。
 少しでいいから〉


〈なんで?理由によっちゃ反対だ〉


〈どうして?〉


〈茜は俺のだ〉


珀はさらりとそんなことを言う。


その言葉につい顔が赤くなるのを感じた。


俺のだ、なんて堂々と言える珀はすごい。


でも待って。


そもそも私は珀のおもちゃじゃないのよ!


〈日記を、書いてほしいの〉


「日記?」


真紀は眸を伏せて地面を見つめた。


なんで日記なんか書きたいんだろう。


不思議に思って首を傾げると、
真紀は頬を赤く染めて私を上目遣いに見た。


〈交換日記を、書いてほしいの〉



< 87 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop