片翼の蝶
翌日。
私は学校の帰りに電車に揺られていた。
相変わらずの満員電車は気が滅入ってしまう。
もう何度目かのため息を吐いて、窓の外を眺める。
ゆるやかに変わっていく景色を見て、
もうすぐ停車駅に着くことを知る。
カバンを握りしめて姿勢を正して、
足を地面に強くつけた。
ぐらりと体が揺れて倒れそうになる。
隣にいたお姉さんが私に寄りかかってきて、
すみませんと小さく呟いた。
電車が到着して、私は波に乗って電車を降りる。
改札を潜って外に出て、
人の少ないことを見計らって口を開いた。
「で、どこに行けばいいの?」
〈南野高校って知ってる?〉
「知らない」
〈じゃあついてきて〉
真紀はスタスタと歩いて行った。
その後を私と珀でついていく。
駅から真っ直ぐ歩いて、
高いビルの間を通り抜け、
大きな坂を上る。
夏の坂は想像以上にきつい。
首元に汗がだらりと流れてくる。
途中で買ってきた飲み物を飲みながら坂を上ると、
大きな校門が見えた。
あれが、南野高校。
とても大きくて眩暈がする。
校門の前には真紀と同じ制服を着た生徒たちが
ぞろぞろと歩いている。
私はその波に逆らって校門を潜った。
他の高校に行くなんて初めてで戸惑う。
勝手に入っていいのかな?
不安になっていると、真紀が手招きをした。
慌ててついて行くと、
校舎の中に入るように促された。
来客用のドアから入って靴をスリッパに履き替える。
ペタペタと音を鳴らして廊下を歩くと、
警備員さんが立っていた。
警備員さんに声をかけると、
来客用の手続きを済ませてくれた。
首から来客の名札をぶら下げてまた廊下を歩く。
真紀はスタスタと歩いていった。
一体どこに行くのか。
しばらく左右を眺めながら長い廊下を歩く。
階段を昇ってまた廊下を歩くと、
真紀は一室の前で立ち止まった。
私も慌てて立ち止まると、
珀も同じように立ち止まった。
「ここ?」
〈うん。入って〉
そこは小さな教室だった。
教室内に入ると誰もいない室内は
ひっそりとしていて、少し涼しかった。
うちの学校と違って黒板は綺麗で、
机も乱れることなく整列していた。
真紀は窓際の一番後ろの席の前に立つと、指を指した。
私はその指先を見つめる。
机の中ってことかな?
ゆっくりと中を覗くと、一冊のノートが入っていた。
真紀の顔を見ると頷かれたので
そのノートを手に取る。
すると真紀は席に着いた。
「これ、あなたのノートなの?」
〈そう。中を開いて〉
言われた通り中を開くと、
日付が書いてあった。
―〇月×日 △曜日 天気は雨。
名前も知らないあなたへ。私とお話しよう