政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
冷静さを取り戻した赤名さんが私の顔を覗き込む。


「彩乃さん、失礼しますね」


そう言って彼女はそっと私の膝の上の手を自身の手で包み込んだ。緊張で冷たくなっていた私の手が彼女の温かい手でほぐれていく。

「誤解させてしまって本当に申し訳ありません。でも彩乃さん、私は専務を今までずっと傍で拝見してきましたが、一度もそう言った感情を抱いたことはありません。それは専務も同じです。私の初恋は賢人で、以来私は賢人以外の異性を愛したことはありません」

私を安心させるように赤名さんは自身の恋愛について教えてくれた。ただの名目上の上司の妻にここまで温かな気持ちを向けてくれる彼女の心遣いが嬉しくて、申し訳なかった。

「親族の集まり等では環くん、と呼んでいますがそれだけです。彩乃さんがお嫌でしたら呼び方は変えます。ですがどうか秘書として従兄妹としてお願いします。専務の気持ちを信じてあげてください。彼はあなたを本当に大切にしています。あなたに嫌われたくなくて必死なんです。今までどんな女性にも本気にならなかった彼がこれほど一途にひとりの女性を想う姿を、私は初めて見ました」

彼女の言葉に相良さんも深く頷いて同意する。思わず目を瞠った。


呼吸が苦しい。胸に拡がる甘い痛みに泣きたくなる。


赤名さんに呼び方のことまで気を遣わせてしまって、いい大人だというのに私は何をしているのだろう。
自分の未熟さに嫌気がさす。

皆を巻き込んで心配させてしまって、挙句迷惑をかけている私はなんて情けない人間なのだろう。


「迷惑をかけてしまって本当に申し訳ありません……」
弱々しく私はふたりに謝罪する。


赤名さんは綺麗に口紅が塗られた唇でニッコリ微笑んだ。
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