政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
2.偶然の出会い
隆と別れてから一カ月が経ち、クリスマスと年末年始が慌ただしくやってきて去っていった。

新年を迎えても何ひとつ晴れやかなことはない。年末年始に実家に帰省した時、別れたことを言い出せなかった。

私の日常は何も変わっていない。真冬の寒さが厳しくなったくらいだ。

毎日決まった時間に起きて、出勤する。仕事をこなし、帰宅する。その繰り返し。

隆からはあの日以来、なんの連絡もなく、私も連絡をしなかった。あの日の彼を思い出すと、連絡を取ることが憚れた。できることならこれまで傷つけたことを謝りたかった。

そんな毎日を過ごしていた一月半ばのある日、会社内の廊下で偶然隆に会った。

私は総務部に向かう途中で、彼はひとりだった。久しぶりに正面から見据える彼の顔は記憶のなかの姿と変わらない。細身の薄いグレーのスーツがよく似合っている。

ドクンドクンと自身の鼓動だけが耳に大きく響いた。

どうしよう、何を言えばいい? 何も言わないほうがいい?

私に気づいた彼は、一瞬驚いた顔をした。
緊張した面持ちの私とすれ違う瞬間、足を止めて吐き捨てるように言った。

「彩乃にとって俺はやっぱりその程度の存在だったんだな。最後の最後まで彩乃は俺に本心を見せてくれなかった」

冷淡に投げつけられた言葉が、胸を鋭いナイフのように抉った。

「そんなこと」
ない、と言いかけた私はその後を口にできなかった。

顔を上げて見つめた彼の目が、一瞬悲しそうに歪んで見えた。
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