政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
私があなたをそれほどまでに傷つけたの?

言葉をなくした私に、彼はさらに言葉を続ける。


「彩乃なんかと付き合うんじゃなかった」


硬く低い声で言い捨てて、足早に歩き去った。その声がズンと胸の奥底に響いた。

彼の言葉を否定することもできず、茫然とその後ろ姿を見送った。

その瞬間、サアッと身体中から血の気がひいた。ポタリと白い床に水滴が落ちた。それは私の両眼から零れ落ちたもの。


「ふ、くっ……」


就業中のこんな廊下の真ん中で何をみっともないことをしているのだろう。
いつ、ここを人が通るのかすらわからないのに。

だけどあふれ出した涙は止まらなかった。この涙はいったいなんの涙なのだろう。

彼を好きになれると信じていた。

実家のしがらみで凝り固まっていた私を救ってくれた。好きになるのに時間がかかるのなら、せめて努力しようと思った。

その形は恋人ではなかったのかもしれない。
恋とは程遠かったのかもしれない。

でも私はその可能性を直視しなかった。

そんなチグハグな私の気持ちを見透かしていたのだろう。私と彼の想いは完全にすれ違っていた。

彼が放った言葉が矢となって胸に刺さり、足元がグラグラ揺れる。まるで真っ暗な深い穴が足元に開いているような感覚に襲われる。

全ては私のせいだ。

元彼氏にあれほど冷淡に付き合うんじゃなかった、なんて言われる元彼女はどれだけいるのだろう。

誰かを努力して好きになることは恋ではないとどうしてわからなかったのだろう。
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