政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「値段は関係ない。彩乃が気に入ったものを選んで。一生身に着けるものだから」


一生、という単語がくすぐったかった。頬にカッと熱が集まる。


「……それなら、環さんも一緒に選んで。でもお願いだから高価すぎるものはやめてね」
赤い顔のままそう言うと彼は嬉しそうに破顔した。

結婚指輪を共に選ぶ作業は驚きもたくさんだったけれど、泣きたくなるくらいに幸せだった。胸に湧き上がる温かい想いと疼く切なさはきっと彼への私の想い。


幸せすぎると泣きたくなるということを、この日私は身をもって知った。


小さなリング。
そこには言葉にならない愛情と覚悟が詰まっている。


結婚指輪を選び終え、私たちは宝飾店を後にした。宝飾店を出た後も周囲からの視線は凄まじかった。


「皆、彩乃を祝福しているんだ」


彼は笑ってそう言うけれど、これだけ注目されて普段通りには振る舞えない。本当に彼との器の違いを感じてしまう。

人から注目されることを彼は自然に享受している。気負うこともなく、むしろ好機として受け止めている。

彼には自信が満ち溢れている。堂々としていながらも品のある所作と佇まい、人目を惹く整った容姿。それだけではなく、人を惹きつけるものを彼は備えている。もちろん、その根底には彼のたゆまぬ努力がある。

そんな彼の横に並ぶことに抵抗感がないといえば嘘になる。策略結婚をしていた頃よりは彼の傍に立つことを自然に受け止めることができたけれど、それでも緊張と気後れを感じる。

私にはまだまだ知らないことのほうが多い。彼のことも彼の会社のことも。


これから先、どんな努力をすれば彼の隣に相応しくなれるだろう。
彼を守れる力を手に入れられるだろう。
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