政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「じゃあ買い物の続きをしよう」
そう言って彼は歩き出す。

「お仕事はもういいの? そういえばどうして私がここにいるってわかったの?」
私の質問に彼はニヤリと口角を上げる。

急ぎの仕事は終わったそうだ。私の居場所については数人の社員から平井さんに連絡があったらしい。私が男性と一緒にいて、深刻な雰囲気だと言われて、彼は慌てて駆けつけてくれたという。


「社員一同、上司の無器用な恋を心配しておりますので。専務、準備が整いました」


いつの間にいたのか、平井さんが背後からにこやかに言う。


「平井、少しは遠慮しろ」
環さんが仏頂面で平井さんに返事をする。私は恥ずかしくて平井さんの顔を直視できなかった。


「そういうことだから、もう逃がさないからな? ここの社員は俺の味方だ」
イタズラッぽく笑う彼に私の胸が高鳴る。甘い執着に目眩がしそうだ。逃げるつもりもないし、逃げたくない。


その後、環さんと結婚指輪を選んだ。
ひとつのブランドショップで希望を伝えると、店員は他店の商品も積極的に教えてくれて、苦笑してしまう。

一般客として買い物をするという当初の目的は果たせているのかわからないけれど、皆が優しく親切に接してくれて、とても幸せな時間だった。商品知識が豊富な彼も色々アドバイスをしてくれた。


『婚約指輪は俺が勝手に決めてしまったから』


彼は何度もそう言って私に選ばせてくれた。どの指輪もとても綺麗で迷ってしまう。しかも彼はどんどん高価な品ばかりを差し出してくる。アクセサリーに詳しくない私でも、このブランドでこんなに大きな石がついたものは高価だとわかる。

「あの、環さん、こんなに高価なものではなくて……」
そう何度言っても彼はまったく取り合ってくれない。
< 146 / 157 >

この作品をシェア

pagetop