政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
恋愛結婚でもあるまいし、分かり合う必要がないと思われているのかもしれない。

思わず零れそうになる溜め息を必死に押しとどめる。

「ここは環さんのご自宅ですか?」

それくらいは答えてくれるだろうと必死で言葉を続ける。曲がりなりにも夫婦に、家族になったのだから、少しは彼を知りたい。

「ああ。今日からは彩乃の自宅にもなる。引っ越しはほぼ終わっているよ。彩乃が纏めてくれていた荷物はこちらに運んであるから」
その言葉に今度は私が黙りこむ。

「……そうですか。ありがとうございます」
彼の返事に相槌しか打てなかった。

知らない間に用意されていた新居と突然の引っ越し。理解がまだ追い付かない。

カツンカツンと埃ひとつ落ちていない、磨かれたタイルの床を彼が歩く。薄いミルクティー色の壁には所々に高価そうな絵画が飾ってある。

エレベーターホールはひと際広い空間になっていた。エレベーターの扉はエントランスの扉と同じ色で二基あった。

センサーで管理されているようで、彼が部屋の鍵をかざすとエレベーターの扉が開いた。押されたボタンは最上階の二十階だった。

エレベーターを降りてすぐの部屋の前で彼が立ち止まる。驚くことにこの階にはこの部屋以外の住居は見当たらなかった。

この階全部環さんの部屋なの?

驚愕して、部屋のドアを開けてくれた傍らの彼を見つめる。裕福な人なんだろうとは思っていたけれど、これほどまでとは思っていなかった。

ここは都心の真ん中で最上階の新築マンション。しかもワンフロア全てだなんてもう金額を考えるだけで身震いする。
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